「社長にはADHDが多い」って、本当?研究が明かす脳の多様性と可能性
この記事の要点
起業家の自己申告による研究と、その限界を確認します。ADHDやASDの診断・特性から、職業適性や成功を決めつけない見方を整理します。
この記事は「学校が苦手だった子どもたちが、世界を変えた話」の続編です。ADHDと起業を扱った研究から、働き方と環境の相性を考えます。
「起業家の3割」は、どの調査の数字?
Freemanらの論文は、起業家242人と比較群93人を調査し、起業家の29%がADHDの経験を自己申告したと報告しています。これは、すべての起業家を代表する標本で、医師が全員を診断した結果ではありません。著者も、自己申告や参加者の偏りなどの限界を挙げ、結果を予備的なものとしています。
したがって、「起業家の3割はADHD」と社会全体へ広げたり、子どもの将来を予測したりするための数字ではありません。子どもと成人の有病率を混ぜて比較することも避けたいところです。
日本の研究では、どんな経験が語られた?
江島・藤野・伊藤(2024)は、ADHDのある起業家の経験を質的に検討しています。組織の働き方で困難を経験し、自分に合う働き方を探す過程で、起業を選んだ人の語りが紹介されています。
少数の事例から経験を詳しく理解する研究と、集団全体の割合を推定する調査は目的が異なります。「ADHDなら起業に向いている」という一律の適性検査として読むことはできません。
特性と、仕事の条件を一緒に見る
関心のある課題に取り組む時間を確保できること、自分で仕事の進め方を調整できることが、その人に合う場合があります。一方、期限の管理、事務作業、人との調整が負担になる場合もあります。得意なことも困りごとも一人ひとり違います。
起業だけが選択肢ではありません。組織の中でも、役割を調整したり、予定を見える形にしたり、支援を利用したりする方法があります。
著名人の印象から、診断を推測しない
集中力や強いこだわりを見て、外からADHDやASDと判断することはできません。診断では、症状の経過や複数の場面での困難などを専門家が確認します。特定の診断名と、創造性・知能・事業での成功を結びつけて決めつけることも避けましょう。
子どもの今の困りごとから考える
学校の成績だけで得意・不得意の全部を測れるわけではありません。同時に、学校での困りごとを「将来の成功の兆し」として片づける必要もありません。
何に取り組みやすいか、どんな場面で助けが必要か。本人の話を聞き、学校や専門家とも相談しながら、今の生活に合う支援を考えましょう。有名な起業家と同じ道を目指すことを、子どもへの期待の条件にしなくてよいのです。
参考文献
- Freeman, M. A., Staudenmaier, P. J., Zisser, M. R., & Andresen, L. A. (2019). The prevalence and co-occurrence of psychiatric conditions among entrepreneurs and their families. Small Business Economics, 53, 323–342.
- 江島由裕・藤野義和・伊藤博之(2024)「ADHDと起業家」『企業家研究』23巻、23–46頁
- 米国国立精神衛生研究所(NIMH)“ADHD in Adults: 4 Things to Know”
