「社長にはADHDが多い」って、本当?研究が明かす脳の多様性と可能性
起業家にADHD特性が多いとされる研究や、ASD特性とテクノロジー企業の親和性を手がかりに、学校と社会で評価される力の違いを整理します。
この記事は「学校が苦手だった子どもたちが、世界を変えた話」の続編です。
「起業家の3割はADHD」都市伝説じゃなかった
「社長にはADHDが多い」という話、耳にしたことはありませんか。
なんとなくそんな気はするけれど、根拠があるのかどうかよくわからない。そう感じている方も多いと思います。でも実は、これを裏付ける研究データが複数存在します。
「起業した人の3割は発達障害(ADHD)だった」と示すアメリカの調査結果があります。一般人口におけるADHDの割合が5〜7%程度とされていることを考えると、起業家の中に占める割合として「3割」はかなり際立った数字です。
さらに、ニューロダイバージェント(発達障害の特性を持つ)起業家の67%が「自分の特性がビジネスの成功に寄与している」と回答しているという調査結果も出ています。
偶然ではなさそうです。
研究者が語る「ADHDと起業の親和性」
この分野を長年研究してきた大阪経済大学の江島由裕教授は、こう言います。
「ADHDの特性といわれる多動性・衝動性・不注意のうち、多動性と衝動性は起業プロセスにプラスに作用する可能性が高い。起業を軌道に乗せるためには、不確実性が高い状況下で直感的に世の中の動きを先取りし顧客を獲得する必要があるが、これをやり遂げるには多動性と衝動性はプラスに作用する」と。
さらに江島教授は、「ADHD起業家は『生き方としての起業』を選択する傾向がある」とも分析しています。つまり金銭的な成功を目指すというよりも、「雇われる働き方が自分には合わないから、自分で環境を作る」という動機で起業を選ぶケースが多い。それが結果として、特性を活かせる場所を自分で作ることになっているわけです。
具体的にどんな特性が強みになるのかを整理すると、こんなふうになります。
- 過集中: 興味を持ったことへの異常なまでの集中力。スタートアップが、がむしゃらに突き進まなければいけない時期にそのままパワーに変わる。
- リスクテイキング力: 「どうなるかわからない」状況を恐れず飛び込める。新しいビジネスはそもそも不確実との戦いなので、リスクを取れない人には起業そのものが難しい。
- マインド・ワンダリング: 注意が散漫になる一方で、脳内でさまざまな情報がつながり、非凡な発想が生まれやすい。「飽きっぽさ」の裏側にある創造力。
ASDが「テクノロジー企業」と相性がいい理由
ADHDだけではありません。ASD(自閉スペクトラム症)と起業の関係にも、研究の目が向いています。
シリコンバレーで巨大企業を築いたイーロン・マスク、ジェフ・ベゾス、ビル・ゲイツ、ラリー・ペイジらに共通するのは、極めて高い論理的・数学的知能を活かしてハイテク系ベンチャーを創業したことです。そして彼らの多くが、ASD的な特性、強いこだわり、ルール志向、深い集中力を持っていることが指摘されています。
「空気を読まない」「常識にとらわれない」「一つのテーマを誰よりも深く掘り続ける」。これらは学校では問題視されがちな特性ですが、まだ誰も解いていない問題に挑み続けるテクノロジーの世界では、決定的な武器になります。
PayPalの共同創業者ピーター・ティールはかつて「シリコンバレーの起業家はどこかアスペルガー的だ」と語ったといいます。逆に言えば、「アスペルガー的な特性」を持つ人がシリコンバレーに集まり、テクノロジーで世界を変えてきた。そういう構図が見えてきます。
ただし「成功保証」ではない、という大事な注釈
ここで正直に付け加えておきたいことがあります。
同じ調査では、ニューロダイバージェント起業家の96%が起業の過程で何らかの差別や困難を経験していることも明らかになっています。強みがある一方で、事務処理、スケジュール管理、人間関係の維持など、苦手な場面も当然あります。
また研究者たちも「ADHDだから起業すべき」とは言っていません。江島教授は「神経発達症として診断されるか否かは、本人に困りごとがあるかないかで決まる。診断を受けていなくとも、多動性と衝動性の特性を持っている人は多数存在し、そうした特性は起業において大切だ」と述べています。「発達障害だから成功する」ではなく、「特定の特性が、特定の環境でプラスに働く」。それが実態に近い見方です。
「学校のものさし」と「社会のものさし」は別物
前回のコラム「学校が苦手だった子どもたちが、世界を変えた話」でも触れましたが、学校という場所は「平均的なペースで、決められたことを正確にこなす力」を評価する仕組みです。
でも社会に出てからの評価軸はもっと多様です。新しいアイデアを出す力、リスクを恐れない行動力、一つのことを誰よりも深く掘り続ける集中力。そんな力を、学校の成績表は数値化してくれません。
じっとしていられない、授業中に関係ないことを考えてしまう、興味のないことはまったく頭に入らない。それは確かに「学校という場所」では困りごとになります。でも視点を変えれば、それは**「エネルギーの向け先がまだ見つかっていないだけ」**かもしれません。
お子さまが「学校のものさし」で測りにくいタイプであっても、それは別のものさしで大きく伸びる可能性を持っているということでもあります。親がそのことを知っているかどうか。それだけで、子どもへの関わり方はずいぶん変わるはずです。
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参考資料
- Barclays Eagle Labs「Neurodiverse Founders」調査
- Small Business Economics「The prevalence and co-occurrence of psychiatric conditions among entrepreneurs and their families」
- 江島由裕(大阪経済大学教授)「ADHD特性は起業家向き」日経ビジネス(2024年6月)
- 江島由裕・藤野義和・伊藤博之「ADHDと起業家」企業家研究23巻(2024年)J-STAGE
- ニューロアントレ(一般社団法人Dioden)




