「私」もそうかもしれない 診断はないけれど、大手を辞めて起業が続いている話
この記事の要点
診断はなくても特性のグラデーションは存在します。大手企業では続かなかった働き方が、起業という環境ではなぜ続くのかを、開発責任者自身の実感から綴ります。
この記事は「学校が苦手だった子どもたちが世界を変えた話」「社長にはADHDが多いは本当か?」シリーズの続編です。
筆者: BrainySproutsPrints・BrainySproutsを開発・運営するBrain Bloom LLC 開発責任者
正直に言います
これまでこのシリーズでは、イーロン・マスクやリチャード・ブランソンの話をしてきました。研究データも紹介しました。でも実は、このコラムを書きながらずっと「これ、自分の話でもあるな」と思っていました。
私自身、ADHDと正式に診断されたわけではありません。でも振り返ると、「あ、そういう気質があるんだな」と思う場面がたくさんあります。
学歴も職歴もあった。でも、大手は続かなかった
いわゆる「ちゃんとしたルート」は、しっかり歩みました。理系の大学・大学院(途中まで海外)を経て、名の通った会社に入って。履歴書だけ見れば「何も問題ない人」に見えたと思います。むしろ「地頭はある」と周りに言われることすらあった。
でも、続かなかったんです。
「決められたことを、決められた通りに、決められた時間にやる」という働き方が、どうにも体に合いませんでした。自分がおもしろいと思えないことへの集中力がほぼゼロになる。逆に、興味を持ったことには際限なく時間を注いでしまう。会議中に別のアイデアが浮かんできて、そちらのほうがずっと大事に思えてくる。
能力の問題ではなかったと思います。「仕組みとの相性の問題」でした。
起業してみたら、なぜか続いている
不思議なことに、自分でビジネスを始めてからは「続いている」のです。
大手では長く続けられなかったのに。
今になって思うのは、起業という働き方がADHD的な気質に驚くほどフィットしているということです。誰かに決めてもらった仕事をこなすのではなく、自分が「これだ」と思ったことに全力を注ぐ。スケジュールも優先順位も全部自分で決める。「過集中」が弱点ではなく武器になる環境。
前回紹介した江島教授の研究では、ADHDの特性を持つ起業家が、働き方だけでなく生き方の選択として起業を捉える傾向が論じられていました。私自身も、成功を目指したというより、自分が力を出せる環境を探した結果、起業という形になったと感じています。
そうして生まれたのが、子どもの学びを支えるBrainySproutsというアプリであり、無料の学習プリントサイトBrainySproutsPrintsでした。「自分が好きなことに没頭できる環境」を自分で作ったからこそ、続いています。
「診断がない」ことと「特性がない」ことは違う
ここで少し立ち止まって考えてほしいことがあります。
不注意、多動性、衝動性などに似た傾向は、診断を受けていない人にも程度の差を伴って見られます。ただし、日常の一場面で思い当たることと、ADHDやASDの診断基準を満たすことは同じではありません。診断では、症状が続く期間、始まった時期、複数の生活場面での困難などを専門家が総合的に確認します。
そのうえで、診断の有無にかかわらず、自分の働き方と環境の相性を考えることには意味があります。「大手では続かない」「組織の中で生きづらい」という経験を、本人の弱さだけで説明せず、仕事内容や進め方との不一致も含めて見直す余地があります。
子どもに伝えたいこと
私がこのシリーズを書いてきたのは、子どもを持つ親御さんに届けたいことがあるからです。
学校で「落ち着きがない」「集中できない」「授業についていけない」と言われている子がいるとしたら、それはもしかしたら、環境が合っていないだけかもしれません。
そしてその子が大人になったとき、「自分の特性を活かせる場所」を見つけられるかどうかは、子どもの頃に「自分の得意や好きを知っていたか」に大きく左右されます。
私が自分でビジネスを続けられている理由の一つは、関心のある仕事へ時間を使えることだと感じています。これは私自身の経験であり、同じ特性を持つすべての人に当てはまる答えではありません。
このシリーズを振り返って
4回にわたってお届けしてきたこのシリーズ、まとめるとこういうことです。
授業のペースと学び方の関係を考え(第1回)、学校生活に苦労した起業家の例を紹介し(第2回)、起業とADHDの特性を調べた研究を取り上げました(第3回)。今回は、診断名を自己判断するのではなく、自分の得意・不得意と環境の相性を見直すという立場から、筆者自身の経験を書きました。
「学校のものさし」だけで子どもを見なくていい。そのことを、少しでも感じていただけたなら嬉しいです。
Brain Bloom LLCでは、お子さまの「好き」「得意」を引き出すプロダクトを開発しています。
- BrainySproutsPrints(brainysproutsprints.com): 学年・テーマ別の学習ワークシートを無料で提供。今日の授業の「もう一度」にも、「もう一歩先」にも、ぜひ使ってみてください。
参考文献
- 厚生労働省「発達障害の特性(代表例)」
- 厚生労働省「こころの耳:注意欠陥性多動障害(ADHD)」
- 米国国立精神衛生研究所(NIMH)“ADHD in Adults: 4 Things to Know”
- 江島由裕教授によるADHDの特性と起業行動に関する研究・解説(前回コラム掲載資料)




