「やればできる」は本当か?——「いつまでもやらない子」の心の中を覗いてみると

公開日 更新日

この記事の要点

「やる気さえあれば動ける」は本当か。心理学の観点から、「やらない子」の背景にある失敗への恐れ・固定マインドセット・外発的動機づけの問題を解説し、親ができる関わり方を整理します。

「やればできるのに、やらない」——この言葉の違和感

「やればできるのに」。 子どもを持つ親なら、一度は心の中でつぶやいたことがある言葉ではないでしょうか。テストの結果を見て、宿題を後回しにしている姿を見て。「能力はあるのに、なぜやらないんだろう」と。

でも少し立ち止まって考えてみると、この言葉には大きな前提が隠れています。「やる気さえあれば、人は動ける」という前提です。

はたして、それは本当でしょうか。

やる気が出ない子どもの心理

やる気は「出すもの」ではなく「出るもの」

心理学の世界では、人の「やる気」は大きく2種類に分けられています。

ひとつは「外発的動機づけ」——ご褒美や罰など、外から与えられる動機です。もうひとつは「内発的動機づけ」——楽しい、面白い、もっと知りたいという、内側から湧き出る動機です。

外発的動機づけには、ご褒美や罰で動く形だけでなく、本人が学ぶ意味を理解し、自分の目標として取り組む形も含まれます。外から始まった動機だから必ず長続きしない、とは言えません。

つまり「勉強しなさい」「やればできるでしょ」という声かけは、外から動機を与えようとしているわけですが、それだけでは長続きしない。むしろ親の価値観を押しつけてしまうと、子どもは「自分で決めても無駄」と学習し、行動意欲を失うこともあるのです。

「やらない」には、ちゃんと理由がある

では「いつまでもやらない子」はなぜやらないのでしょうか。やる気がないから? 怠けているから?

心理学的には、もう少し複雑な理由があります。

心理学では「固定マインドセット」といって、「人の能力は生まれつきで変わらないものだ」と信じている子どもは、「数学が苦手なのはずっと変わらない」「自分にはセンスがない」と考えて、結果を得るための努力を避け、失敗に甘んじてしまう傾向があります。

また、一見「やる気がない」ように見える子が、実は失敗を恐れているケースも少なくありません。完璧主義の子どもは、成功を望む一方で、失敗を避けることに最も焦点を当てています。「やって失敗するくらいなら、最初からやらない」——これは怠けではなく、自分を守ろうとする心理的な防衛反応なのです。

さらに、親からできなかったことを追及され叱られると、回避するために自分から行動することをためらうようになることも指摘されています。「やればできる」と言い続けることが、逆にプレッシャーになって「やらない」を強化してしまうこともあるわけです。

「やらない」の裏側にある3つの心理

ここでは、考えられる心理的な背景を三つ紹介します。疲れ、内容の難しさ、体調など別の事情もあり、この三つだけで子どもを分類するものではありません。

① 失敗が怖い(完璧主義・回避)

やってみて「できなかった」という結果が出るのが怖い。だから最初からやらない。「やればできる」と言われるほど、「できなかったときどうしよう」という不安が膨らむ。

② 「どうせ無理」という思い込み(固定マインドセット)

過去の失敗や、できなかった経験が積み重なって「自分にはどうせ無理」という認知が定着している。努力しても変わらないと思っているから、そもそも動かない。

③ 「やらされている感」(外発的動機づけの過剰)

ご褒美や叱責で動かされてきた結果、「自分がやりたいからやる」という感覚が育っていない。誰かに言われたからやる、という姿勢が定着してしまっている。

では、親はどうすればいいのか

アメリカの心理学者エドワード・デシとリチャード・ライアンが提唱した「自己決定理論」では、子どもの「自律性」「有能さ」「関係性」の3つを高めていくことが重要とされています。

難しく聞こえますが、日常の中でできることに言い換えると、こんなことです。

「自律性」を育てる——小さな選択肢を渡す

「勉強しなさい」ではなく「算数と国語、今日はどっちからやる?」。自分で選んだという感覚が、やる気の土台になります。

「有能さ」を育てる——できたことに注目する

できなかったことを指摘するより、できたことを認める。取り組みの過程に注目した声かけをすることで、子どもの視点を変えてあげることが大切です。たとえ100点をとれなかったとしても、頑張ったことに意義があると自分の失敗を受け入れられるようになります。

「関係性」を育てる——安心して失敗できる場所になる

失敗したとき「なんで!」と言われる親より、「次はどうしようか」と一緒に考えてくれる親のそばでは、子どもは挑戦しやすくなります。

「やればできる」より、刺さる言葉

最後に、ひとつだけ。

「やればできる」という言葉は、結果に対するメッセージです。でも子どもが本当に必要としているのは、「挑戦した過程」を認めてもらうことかもしれません。

「やってみたんだね」「難しそうなのに向き合ったね」——そういう言葉が、子どもの中の「また挑戦してみようかな」という気持ちの火種になります。

やる気は「出せ」と言われて出るものではありません。安心できる環境の中で、少しずつ育っていくものです。


参考文献

幼児・小学生向け知育アプリ・Webサービスの開発・運営チーム。保護者の声をもとに、家庭で使いやすい教材づくりを続けています。運営・サービス概要